分離移転

移転先に新たな基礎を作り、既存の基礎を切り離して上屋のみを新しい基礎に乗せる工法です。 その特徴から、主に木造と鉄骨造に適用されます。近年の住宅曳家工事のほとんどが、 この工法によって施工されております。

もっとも重要な「補強」

骨組みとしての基礎を切り離す為、建物の下部に何らかの補強を施す事になりますが、 その補強法は建物構造によって異なります。

通常のいわゆる在来工法やツーバイフォーの木造住宅、あるいはボックスラーメン構造の 軽量鉄骨造の場合は、下写真のように建物下に格子状の鉄骨等でフレームを形成し、建物はその上に乗せる形で移動する 「架台式補強」を行います。

分離移転

また、神社やお寺、古民家といった、土台を持たない落とし柱式の木造や、重量鉄骨造等の場合は、 架台式の補強が不可能なため、柱の足元あたりを鉄骨や木材で横から挟み込むように固定し、それを格子状に組んで フレーム構造を作る「柱脚固定式補強」を行います。

おそらくこれが最も古くからある補強方法です。当社は明治の時代より曳家工事に携わって参りましたが、 当社に保管されている古い道具はほとんど、柱脚固定用の資材です。

柱脚補強神社仏閣

分離移転工法ではこの補強のやり方が最も重要です。

当社では20年ほど前、それまで使用していた鉄道用レールは全て廃止し、Iビームと呼ばれる鉄骨材料を 全面的に採用しました。レールは本来その使用目的に叶うしなやかで曲がりやすい材料であり、 補強材としては曲がる事は建物の損傷に直結する事を意味し、補強材には不向きであると考えたからです。 当時その代替材料として検討した結果、天井クレーンのレール等に多く使用されているIビームが、 垂直方向の断面強度を通常のH鋼よりも強く設計されており、最も曲がりにくく剛性の高い材料であると判断し、 現在では全ての補強材・路盤材にIビームを使用しております。

Iビーム

分離移転最大の弱点の克服

分離移転には次のようなメリット・デメリットがあります。

メリットデメリット

@平均的には工事費が安く、工期が短い 特に移動距離が長いほど傾向が強い

A新たに基礎を作るので、古い住宅等建物によっては基礎がアップグレードされる

@移動時のフレーム(鉄骨・レール等)のタワミにより、建物の歪みが避けられない

Aアンカー性能(基礎と上屋を繋ぎ止めるボルトの接合強度)がどうしても強くできない

B基礎に移動フレームの為の開口部を設ける為、その部分の基礎強度が低くなる

総移転が理想的な工事とは認識していても、既存の基礎強度が低いと不可能もしくは品質の高い工事にならず、、 そもそも基礎を新たに作る方がその後の建物にとっても良いという観点から、 古い建物にはむしろ積極的に採用される工法とも言えます。

ただ、問題となるのがデメリットBの、開口部の処理です。

基礎開口部

写真のような開口部は、新しく作った基礎の弱点として永久に残ります。鉄筋は本来不適切な溶接以外に処理方法が無く、 コンクリートは2度打ちのためコールドジョイントと呼ばれる分離された状態となります。 後からモルタルの上塗りで隠れるので、見た目の問題はありませんが、潜在的にその開口部の高さ分、 基礎の「梁」としての強度は非常に低いものと考えざるを得ません。

現在、ほとんどの曳家業者さんがこの開口部を設けており、当社でも数年前まではその点を承知の上で、 分離移転時は開口部を設けておりました。他に良い方法が無かったのと、鉄筋やアンカーの工夫である程度は 回避できていたためです。

しかし近年、当社ではこの開口部を作らない工法を開発し、大変好評を得ております。 特殊技術な為詳細な資料を掲載できませんが、総移転不可能な案件の場合、 当社であれば分離移転時最も懸念される基礎の弱点を回避できております。