総移転

曳屋工事には様々な工法があり、特に木造住宅のような布基礎或いはベタ基礎構造の移転方法としては、 土台から上を基礎から切り離して移動する「分離移転」と、基礎ごと全て移動する「総移転」に大別されます。

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なぜ総移転が優れているか

建物は元々基礎の上に順番に材料を組み付けながら建築されており、その基礎を建物から切り離すという事はそもそも 想定されていない状況であり、ある意味危険な状態にする事になります。

また、足元の最も重要なコンクリートという骨組みを失ってしまう建物は、あらゆる方向に曲がろうとする力が解放されます。 そのことにより、本来はかかるはずのない力が木軸(木の骨組み)の接合部にも及び、建物が歪んでしまう事になります。 分離移転においては、その危険と歪みをいかに小さく済ませるかというのが最重要課題であり、補強が最も重要な役割を持ちます。

そうは言っても、その補強には限界があり、コンクリート基礎のフレーム強度を補強で実現しようとすると、あまりにもコストがかかる だけでなく、その補強を成し得る工程の間に必ず切り離す工程も存在するので、一時的に発生する歪みだけは回避しようがありません。

そういった懸念を一切持たずに済む方法、それが総移転工法です。

基礎を切り離さず移動するフレームとして利用する事で、建物への負荷は非常に小さく、元々の構造体を維持しての移動なので 軸緩みによる歪みも危険も無い、まさに「建物を傷めずに移動するのに理想的な技術」であると言えます。

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克服された工事コスト高

工法としては大変優れてはいても、一体で移動する基礎コンクリートは、曲がろうとする力をしなやかに逃がす素材では無いため、 分離移転に比べて大変緻密な水平維持・過重コントロールが不可欠で、実は大変高度な技術を必要とします。また、基礎にある程度 移動するためのフレーム構造を頼る形となるため、基礎強度が不十分な場合は補強を必要とし、余計に手間がかかる事もあります。 さらに、地面から上のみで仕事が可能な分離移転とは違い、基礎下を人力で掘削するという大変な手間も必要とします。

つまり元々施工条件が厳しい工法でもあり、コストが高い工法でもありました。それが理由で、これまではどちらかと言うと 避けられがちな工法だったと言えます。

また、分離移転と比較して精度の高い施工を要するため、特に移動距離あたりの単価がどうしても高くなり、長距離の移転には更に 不向きでした。しかし逆に、少ししか移動しないようなケースでは、基礎を作るために一旦逃げるという工程を必要とする分離移転に対して、 直接移動するだけで済む総移転が有利なので、例えば移動距離が少ししか無く、それでいて一旦建物を逃がすスペースも確保できない、 そういうケースに限って検討・施工されてきたような側面があります。

しかしやはり歪まない・痛まない・安全という総移転のメリットはやはり代え難いもので、できることならば移動距離が長くても どうにか総移転を低価額で実現できないかと、当社ではここ数年研究を続けておました。 多くなりがちな総移転の手間や段取りを様々な角度から見直し、工程の合理化や道具・工具の改良等を重ね、ついに現在では、 例え移動距離が長くても分離移転と同等の価額で総移転を実現できるようになりました。

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新しい家は絶対に「総移転」

そういったことで現在当社では、1995年以降(阪神淡路大震災後の建築基準改正後)に建てられた住宅であれば、 ほぼ100%総移転工法をおすすめしております。また95年以前の建物でも、妥当な構造強度をもった基礎であれば総移転が可能です。 一度拝見させていただければ可能かどうか判定できますので、お気軽にご用命ください。