沈下修正

地震時の液状化や、地盤不良による自然沈下等で建物が傾いてしまう状況を、「不同沈下」と言います。 この不等沈下が起こった場合、まず考えなければならないことは、
  • @建物を高さを戻し、水平に治す→沈下修正
  • Aまた後から沈下しないようにする
という2点です。
この@建物を水平にする事を、「不同沈下修正」あるいは「沈下修正」呼び、Aは「再沈下防止」と呼びます。
この2つは混同されがちですが、目的は明らかに異なるので理解する必要があります。ただ、工法によってはそのどちらも達成する工法もあります。 建物の内容・状況と、2点の目的をどうしたいかにより、最適な工法が決まってきます。

沈下修正の工法としては曳家工事の総移転と分離移転に準ずる考え方として、
  • @基礎下から上げる工法
  • A基礎上を切り離して上げる工法
…に大別されます。


1.基礎下から上げる工法

基礎下から上げる工法にも様々あり、大別すると次のようになります。


基礎下ジャッキアップ+空隙充填

耐圧盤工法とも呼ばれています。
ジャッキ盤によって地盤を若干補強しつつ建物を水平にし、基礎下にできた隙間(空隙と呼びます) にモルタル等の流動性のある材料を流し込んで固めます。最もスタンダードな沈下修正工法と言えます。
メリットデメリット
  • 緻密なジャッキ調整により、精度の高い施工が可能
  • ジャッキの同調操作により、基礎に与える負荷が小さい
  • ある程度の基礎強度があれば、大抵どのタイプの建物でも施工可能
  • 基礎強度が不足だと不可能
  • 地盤の補強はある程度しかできない(他の工法を一部併用して補強は可能)
  • 建築面積の大きな建物の場合、若干施工費が高くなる
当社では現在、費用対効果のバランスを考慮し、この基礎下ジャッキアップが最も費用対効果が高いと考えており、 一番お勧めしておりますが、その他の工法も全て対応可能です。(注入系の工事は協力業者での施工となります)


アンダーピンニング

基礎下ジャッキアップの応用とも言える工法で、基礎下に大きな空間を作り、太さ15cm・長さ1m程度の鉄パイプを、 建物の重量を利用して地面に一本ずつ押し込みながら連結し、地中の支持層までの杭を何本も形成する工法です。 本来先にやっておけば良かった杭を、後から何とか入れる、という考え方です。
メリットデメリット
上記の基礎下ジャッキアップのメリットの他に…
  • 再沈下防止性能はかなり期待できる
  • 重い建物(ビル等)の場合、ほぼこの工法以外に選択肢がない
  • 基礎強度が不足だと不可能
  • 非常に施工費が高い 建築面積の大きな建物の場合更に高くなる
  • 支持層が深いと工事費が更に嵩み、再沈下防止性能も疑わしくなる(深すぎる場合は施工不可)
近年当社では、一般住宅でのアンダーピンニング工事は、費用対効果が低すぎると考えており、 建物全体で行う工事にはあまりお薦めしておりません。(部分的な補強としては有用です)
もし曳家を行えるスペースがあったら曳家を行なって、地盤をしっかりと作りなおす方法をお勧めしております。


薬液圧入工法

地面の中に、後で固まる薬液を高圧で注入し、言わば地面をふくらませるイメージで基礎から上を持ち上げる工法です。
特殊な技術と機器が必要とされます。圧入される薬液はグラウト系とウレタン系に大別されます。
メリットデメリット
  • 沈下修正と共に地盤改良も成されるため、再沈下防止もなる
  • 施工期間が短い
  • 建物周りが狭い現場でも工事可能
  • ベタ基礎以外は施工が難しい(施工できるケースが比較的少ない)
  • 圧入された薬液が、隣地や隣接道路に漏れたり膨らんだりというトラブルがある(グラウト系)
  • 圧入された硬化剤が経年変化により押し潰れ、再沈下を起こす懸念をされている(ウレタン系)
  • どうしても高さ調整の精度に疑問が残る
  • 鉄筋コンクリート等の重い建物には不向き(無理やりやると隣地への流出が顕著)
上記の表ではメリットに比較してデメリットが多いように見えますが、特別そういう意味ではなく、ここ最近では 最も普及が進んでいる工法とも言えます。
ただ現在、一部の地域で下水本管への漏洩が確認されており、新たな問題となっています。


2.基礎上から上げる工法

一般的には「プッシュアップ」「土台揚げ」等と呼ばれておりますが、当社では
「基礎上ジャッキアップ」と呼んでおります。
手間が少なく済む簡単な沈下修正工法ですが、工程上次のような問題があります。
  • 基礎を一部壊してジャッキや金具を組み付け、モルタルで埋め戻す
     → 基礎強度が下がる
  • アンカーボルトは切断し、後で可能な範囲での金具接合で済ませる
     → 建物としての耐震性能が下がる
どちらも無視できない問題で、工費が比較的安い点以外にメリットらしいメリットも無く、可能であれば避けたい工法です。 逆に、浴室や玄関ポーチといった部分をどうするかによっては、基礎下の工法以上に高くなる場合もあります。 しかし、やはり古い住宅等既存基礎強度が不十分な場合は、一般的な基礎下の工法は不可能な場合が多く、 この工法を選択せざるを得ないというケースは多いです。ただ見方を変えれば、古い住宅はそもそも建物寿命も残りが少なく、 将来の建替えや新築までのつなぎとして、延命的にこの施工をして経費を安く済ませる、というのも考え方の一つです。

基礎上ジャッキアップで住宅の耐震強度が下がるデメリットは、100%の回避は不可能ですが条件によっては ある程度の回避が可能です。当社では常に、可能な限り基礎を壊さない最良の手段・最小の箇所数でこの工事にあたっております。 詳しい説明が可能ですので、遠慮無くご相談ください。